茄子(黒田硫黄、講談社)
- 作者: 黒田硫黄
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/07
- メディア: コミック
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黒田硫黄を知ったのは大学生協の書籍店でモーニング増刊を立ち読みした時載っていたネオデビルマンからなのだが、凄く良かった。避難生活、悪魔の死体を運搬する電車の異様さ、性的関係を持った姉弟、それらすべてを何とかしようとする男が主人公で、雷沼博士を訪ねて北海道へ旅をする話。絶望しか見えない。描いているのだれだかわからないけどすげー、と思った。衝撃だった。別口で「大王」を買って読んだらそれが黒田硫黄だとわかり、その後「茄子」「大日本天狗党絵詞」「黒船」「セクシーボイスアンドロボ」と出ている本をすべて買っていった。漫画にちょっと詳しい尖がったつもりの大学生の誕生である。
最近目立たないが*1注目すべき漫画家であることに変わりは無い*2。
で、「茄子」である。茄子がとりあえず出てくるオムニバスだが、その中のスペイン出身の自転車レーサーの話である「アンダルシアの夏」(1巻に入っている)がメチャクチャ面白い。レース中の選手の息遣い、テレビの実況、茄子のアサディジョ漬けを食べながらレースを見る観客などの描写が細かく、コミカルで、実際こういう風なんだろう、と思わせる。
レースの日は兄の結婚式で、相手は元恋人。しかもレース中にスポンサーにクビを宣告されるという、踏んだり蹴ったりの出来事が起こる。しかし突然千載一遇のチャンスが訪れ、優勝に向けてライバルたちと競り合いながら走る、というお話。普通に面白い。黒田硫黄の漫画が面白いという事を素直に語れる。スタジオジブリぽい作画のアニメ映画にもなった。
他の話も面白い。田舎で茄子を栽培する元大学教授と彼を訪れる人々(家出少年少女とか不眠症の女性とか)とのやりとりとか、親が夜逃げして残された女子高生と、学校の屋上でサバゲーごっこしていた中学生男子との出会いとか、高校卒業しても進路の決まらない女が、弁当作って同じ境遇の元同級生とキャッチボールしに行く話しとか。
あと江戸へ茄子を買いに行く田舎武士の話もあるし、新婚夫婦が夜中に腹が空いたのでナスを焼いて食べる話や、トラック運転手が荷物運んでいる途中でフィリピン人の女を乗せて一緒に旅をする話や、なすび型宇宙人が人を襲うSFものもある。キャッチボールの話で出てきた男がインド旅行に行って富豪の娘と仲良くなる話もある。本当に茄子が出てくればなんでもありみたい。シチュエーションがいちいち面白い。あー月刊アフタヌーンのよき伝統を継ぐ良い漫画だなあと思わせる。
で、絵が凄い。筆で描いてるみたいな太い絵だがとてもきれい。女の子かわいいしエロいシーンはエロい。インドが舞台の時はインドの暑さを線の太さ、荒さで表しているし、江戸時代の話では日本画超のタッチに描き分ける器用さももっているようである。*3
画に個性があって話が面白くて器用で、女の子がかわいい(エロい)ときたらもう怖いものなしだと思う。小学館に描かなくても生活できるようがんばれ黒田硫黄。