部屋を掃除したら漫画が沢山出てきたので書く日記

漫画とか合唱とかUNIXとかLinuxとかについて書く日記です。

キャプテン(ちばあきお、集英社)

キャプテン 4 (集英社文庫―コミック版)

キャプテン 4 (集英社文庫―コミック版)

というわけでキャプテンである。夭折の天才、ちばあきおが残した少年野球漫画の永遠の名作である。永遠の名作であるが、実は最近まで知らなかった。小学校時代に家族と一緒に行ったお好み焼屋に「プレイボール」の一巻があったので読んだ(絵がシンプルなものの、ものすごく面白く感じた事を覚えている)のが、唯一ちばあきお作品を読んだ遍歴である*1

「キャプテン」を知ったのは、このwebサイトにたどり着いたからである。
まず、あきまんこと安田朗のホームページを毎日チェックしていた時期があったのだが、そのときにこの人がアシスタントとしてあきまんを手伝いに来、あきまんに絵を褒められていたのでホームページを見てみたのだが、そこに「キャプテン」に関する上記のサイトを見つけたのである。そしてサイトに溢れる「キャプテン」に対する愛情の大きさに感じ入り、読んでみようと思ったのである。そして読んだ。面白すぎて足が震えた。


名門野球部のある学校から、弱小野球部しかない学校に転校してきた谷口君が、最初の主人公である。前の学校では補欠だったのに、名選手と勘違いされてしまう。おまけに引退する3年生からは次期キャプテンに指名されてしまう。ピンチの谷口君は、大工の父ちゃんに特訓マシンを作ってもらい、夜な夜な特訓をし、先行した噂に見合った実力をつけようとするのである。


当然だが、急に野球の腕が上がる事はあり得ない。そういう漫画ではない。谷口君が、実はそんなに野球が上手でない事は、他の部員にすぐ知られてしまう。しかし谷口君は特訓を止めない。呆れていた部員も、いつのまにか熱意が伝染して、猛練習に付き合う事になる。そして、谷口君が補欠だった名門校と試合をし、負けはしたもののもうちょっとで勝ってしまうほどまで善戦する。そのとき、キャプテンが谷口君であることを疑問に思う部員は一人もいなくなっている。引退する3年生は「一番努力しているものだからキャプテンにしたんだ」と語る。こういう漫画である。

熱血少年野球漫画だが、普通ではない。心理描写が物凄い。上記サイトでも解説されているが、例えば谷口君の後輩である丸井(のちの2代目キャプテン)は、大事な試合の直前にスタメン落ちする。年功序列でスタメンを決めていた慣例を止めようと、谷口君が決心したためである。決心した日、丸井は谷口君に「練習のしすぎでグローブが破けちゃいました」とうれしそうに破れたグローブを見せる。そのときの谷口君の表情、情景は、描写が細かいわけでも何でもないのに、すごい力を見せる。


その後、万能選手のイガラシ(のちの3代目キャプテン)、剛速球投手の近藤(4代目キャプテン)とキャプテンは代替わりしていくが、大好きなのは初代キャプテンの谷口がいる時期である。一度善戦した名門校は、高校生を呼んで猛特訓して段違いに強くなっている事を知り、部員は絶望に陥いる。さらに唯一人のピッチャーであるイガラシは「一人しかピッチャーがいないのではこれから先勝ち進む自信がない」と弱音を吐く。そこで谷口君は「ピッチャーが他にいないなら俺がやろう」といって、まったく投げたことが無いにも関わらず、また特訓を始める。

3週間、ずっとピッチャーの練習を朝から晩までやる。練習は練習で行い、授業の合間、練習のあと、寝る前、ずっとピッチャーの練習である。部員はやる気をなくしているので、一人で壁に向かってボールを投げる。壁にボールが当たる「コーン」という音がずっと鳴っている。その音を聴きながら、やる気をなくした部員たちが洗濯をしながら「無理だよ」とか「なんでキャプテンはまだがんばっているんだ」とか話している。しかし「コーン」と鳴るたびにみんな黙りこむ。そして、みんなまたやる気を取り戻し、猛練習を始めるのである。


谷口君は野球の才能はあまりなかった。しかし、異常なほどの努力でみんなを引っ張り、勝ち進んでいく。谷口君の最後の打席や、血染めのボールを投げてキャッチャーが泣くシーンは読んでいて震えた。努力とはこういうものだなあと思ってしまった。爽やかな漫画ではない。合唱人なら高田三郎の「弦」という曲を思い出して頂きたい。そういう漫画である。


ちなみにこの漫画は週刊少年ジャンプで連載していたが、後半になると、もうみんな凄い選手になってしまっていて、なんだか引き伸ばされて終わることができない漫画のように見える。前半、1〜4巻まででも読んでほしい。そして「プレイボール」も読みたい。高校に進学した谷口君の物語である。

*1:こんなことで、漫画好きと言っていて良いのかと恥じ入りました