嵐が原(那州雪絵、白泉社)
- 作者: 那州雪絵
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2001/12
- メディア: コミック
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先日、「ここはグリーン・ウッド」を再読したのですが、やっぱり面白かったです。そして六条倫子さんと手塚旭さんのその後が気になります。
で、「嵐が原」は、たまたま府中まんが館で見つけて購入した本です。「グリーン・ウッド」以降の那州雪絵作品を読みたくて探していた時期に手に入れたものです。その後「魔法使いの娘」も発見したので結構那州雪絵作品が読める現在は幸せです。
「嵐が原」は買ったのが数年前で、その当時は読んだ後「ふーん」という感想で終わっていたのですが、本日本棚の掃除中に見つけたので再読して(当然掃除は中断ですよ)みました。これは・・・凄く良いです。「グリーン・ウッド」に出てくるような造形の少年が出てきますが性格や結末は異なります。
舞台はどこかの中世ヨーロッパ風のとある国、レジオンで、国王を殺すために旅をする少年ハリと出会った、クリールという女の子が主人公です。ハリは国王を殺すためだけに剣を2年間学び、ついにレジオンに潜入しました。同行している青年キシュと共に、占い師のおばあさんに首尾を占ってもらおうとやってきた時に、占い師の孫であるクリールと出会います。
彼らの目的を知ったクリールは「なぜそんな事をしようとするのか」と問います。そこでレジオンの国王に国を滅ばされ母親を失ったこと、滅んだ国の国王が父親だった事を知ります。人を殺すためだけに生きるハリ。とても重い運命を背負っています。
ハリは14歳の少年ですが、キシュとクリールはハリより年齢が上です。二人ともハリを止めたいと考えています。しかし同時に、ハリの、少年のまっすぐ過ぎる行動が、上手く行くように(たとえその結末が悲しいものであっても)と願ってもいます。何故ならば二人とも、ハリのように真っ直ぐに損得を考えずに行動する事は出来ない位の年齢になっているからです。自分たちが失ったものを、ハリには失って欲しくないと考えたのです。
キシュの独白が印象的です。
おれは あんな風には何もかもふり捨てては走れなかった ほんとうは おとなになるよりも あそこへ 走っていってしまいたかったことだって あるんだ だけど捨ててきた まっすぐ歩くために
少年から大人になった時に失うもの、自分に置き換えると、中学時代や高校時代に持っていて今は無いもの、となるでしょうか。大学時代のものも現在進行形で失っているかもしれません。でも代わりに手に入れたものもあると思うんですけどね。
失ったものを愛しく思う気持ちとその代償が描かれるラストは切なくて重いです。キシュとクリールは正しかったのか。描こうと試みているテーマも凄いですが描き方も凄い。これは凄いです。作者もあと書きで書いていますが、若いときしか作れない作品だと思います。超おすすめ。
ではー。