惑星のさみだれ(水上悟志、少年画報社)
- 作者: 水上悟志
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2006/01/27
- メディア: コミック
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訳あってDVDをあと20枚ほど焼かねばならぬのですが、マイPCのDVDドライブでは一枚あたり作成に約7分かかるので、メディアを定期的に出し入れする合間に最近読んで面白かった漫画の事を書こうと思います。
で、「惑星のさみだれ」です。大分前に買っていたヤングキングアワーズに掲載されていたのは覚えていたのですが、その頃の自分は「ナポレオン~獅子の時代~」にしか興味がなかったのでスルーしていました。ちなみにWikipediaの記事によると2005年から2010年にかけて連載されていたそうです。
その後時は流れ、pixivで『「魔法少女まどか☆マギカ」の登場人物が「惑星のさみだれ」の名シーンを再現する漫画』を見つけて凄く良いと思った*1ので読んでみたくなっていたところ、府中駅前の啓文堂にてまとまった巻数の単行本を見つけたので買った次第です。初めは1~2巻、その次の日には3~7巻、更に数日後には8~10巻まで買っていました。おもろい。これは面白い漫画です。
暗い過去を持つひねくれた男子大学生の「雨宮 夕日」(あまみや ゆうひ)が、ある日特別な力を持つ「騎士」になり、喋るトカゲの相棒(ルド)、守るべきお姫様、一緒に戦う仲間と共に、地球の破壊を目論む悪い魔法使いを倒すためにがんばる、という感じのストーリーです。
・・・この説明だけだとあんまり面白く無さそうかもしれません。しかし、面白かったのです。たとえば、
暗い過去(両親を子供の頃に失い、親代わりの恐ろしい祖父からは虐待に近い扱いを受けて育ったこと)を、夕日は
「すごいだろ ははは」
「冗談みたいに不幸だぜ」
と笑いながらトカゲのルドに話しますが、ルドは
「なんて顔だ」
「吾輩には子供の泣き顔に見えた」
と、顔をしかめながら言います。そして笑う夕日のコマの左隣には、泣いている子供の頃の夕日がいるのでした。
これは、両親を失った喪失を、夕日が克服していない事を示唆していると思います。それを感じ取るルドのせりふがとても良いです。
その後、夕日の祖父が入院している事を知り、長いこと会っていない祖父と久々に会うと、病気で死期を悟った祖父はとても穏やかになっており、過去を謝罪します。困惑した夕日はこれまでの怒りと悲しみをぶちまけます。しかし、願いを一つだけかなえる力を持つ相棒のルドに、最後にはこう言うのです。
「おじいちゃんを助けて」
願い事は叶い、祖父は快復します。ここまでが第一巻で描かれます。このような真っ当な人間ドラマが描かれ、かつ上記の通り私の好きな、特別な力で敵と戦うファンタジー物でもある訳です。これはたまりません。
ちなみにこの「願い事」は、戦いの結果死ぬ事になるかもしれない騎士への、先払いの報酬です。この使い道も、キャラクターの特徴を示す大きなポイントになっています。
夕日は悪い魔法使いの手先の泥人形と戦います。泥人形は手強く、戦いの中では犠牲者も出ます。ファンタジー漫画ではありますが安易に生き返ったりしません。死んだらおしまい、もう帰ってきません。かなりシビアです。「他人の死を願うと、自分の死が近くなる」という業の考え方が物語の中にはあり、それがきっちりと描かれます。
そんな過酷な戦いの中で、夕日は初めはあまり強くありませんが、試練を経てだんだん強くなります。
騎士と呼ばれる仲間もだんだん増えていきます。最終的に12人になりますが、年齢も性別もばらばらで、40代男性から女子中学生、小学生男子まで色々なのですが、彼ら彼女らの物語も12人全員分が語られ、それらがすごく良いです。
悪い魔法使い側につくか騎士として戦うか揺れている小学生の騎士「太陽」が成長する様、「悪い魔法使いとの戦い」を理詰めで考え、相手と同じ泥人形を作って戦う事にした太めの青年騎士「風巻さん」とか、ヒーローらしからぬヒーロー達がとても格好良いです。あと高校生の幼馴染同士の騎士である「太郎」と「花子」の物語がとても好きです。あと女の子がかわいい(重要)。
守るべきお姫様である「さみだれ」(高校生の女の子)はアニマという名前の「精霊」と契約をして特別な力をもっています。アニマは、悪い魔法使いと対決する、良い魔法使い、という感じです。さみだれもアニマもかわいいです(重要な事なので二度書きました)。
さみだれはとても強く、泥人形も一人で倒してしまうほどです。そして「悪い魔法使いを倒したら、私が地球を壊す!」と宣言します。一体それは何故なのか、地球はどうなるのか、あと悪い魔法使いとアニマは何者なのか。これらは物語の中で全て明らかになります。複雑な伏線が絡んでいてそれが最後には全て解決します。これも良い点です。
なお、あんまり細かいところはここでは述べませんが、ストーリーは後半にかけてたたみかけるように展開して行きます。が、単行本は全10巻で、とても長い物語ではありません。ストーリーの規模の大きさからして引き伸ばす事は可能だったと思いますが、読んだ後はこの長さでちょうど良いと思いました。長くは無いですが、その分密度がいっぱい、という感じです。あと、他人に薦めたり貸したりするのにお手ごろ、という意味でもとってもおすすめの漫画です。
それから仲間と共に悪い魔法使いと戦うわけなのですが、
・始めは魔法使いの手先である泥人形と戦う
・だんだん相手が強くなる
・戦ううちにこちらも強くなる(いわゆる「レベルが上がる」感じ)
・仲間はそれぞれ得意技を持っている。必殺技もある
・仲間同士で協力して編み出す必殺技もある
・泥人形をすべて倒すと悪い魔法使いと戦うことになる
という感じで、まるでテレビゲームのようだなあと思いました*2。
個人的に、おっ、と思ったのは、騎士全員が攻撃されてみんな傷ついてピンチの状態に、全員の傷を回復させる能力を持つある仲間(名前はネタバレなのでひみつ)が活躍します。自身の精神疲労は回復しないのでどんどん疲れ果てていくのですが、仲間のために回復させ続けます。これはドラクエ3や4のラスボス戦における「けんじゃのいし」要員だ!と思いました(わかりづらい例え)。
これ以外にも、テレビゲームが好きな人なら知っているはずの、
仲間が増えたり強くなったときのうれしさ
とても手ごわい敵を倒すために仲間と協力して凄い必殺技を繰り出した時の興奮
ラスボスを倒したと思ったら真のラスボスが出てきた時の驚き
そして、すべての物語を終えた後のエンディングでの感動を、この漫画でも味わえました。読後感は面白いゲームを最後まで終わらせた時のものと似た、心地よいものでした。ゲームを意識しているのか、作者がこういう作りにするのが得意なのかはわからないですが、ゲームっぽい、と思います。
なお、「最初に登場したあの人は出てこなくなったけどどこ行った?」とか「後半絵柄が荒くなる」など細かいほころびはありますが、それが面白さを損なわせる程のものではありません。
いやー面白かった。2013年6月現在、作者はヤングキングアワーズで「スピリットサークル」を連載中です。一巻が出ていたのでとりあえず買いましたが、これまたおもしろげです。おくればせながら、注目していきたいと思います。
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ではー。