部屋を掃除したら漫画が沢山出てきたので書く日記

漫画とか合唱とかUNIXとかLinuxとかについて書く日記です。

かりん(影崎由那、角川書店)

かりん (1) (角川コミックスドラゴンJr.)

というわけで「かりん」である。作者の影崎由那という人は、出たとこファンタジーの作者である樹るうと友人であるらしく、樹るうの漫画に良く登場するので気になっていたため、購入したものである。友人の作品と同様、細部に気が利いているとても良い漫画だった。

果林という高校生の女の子が、同級生の男の子と一緒にファミレスでバイトしたりとある秘密を共有して意識しあったり、お弁当作って持ってきたりするドキドキラブコメディである。ドキドキラブって何だろう。
まず、女の子がかわいい。それから、登場人物の表情や動きが活き活きしており、描写に手抜きというか、よく使われる描写を流用している場面*1があまり無い。近いものはあるが、決定的に違う。「なかよし」や「りぼん」に載っている漫画に絵柄は近いものがあるが、内容は段違いで手が込んでいる。見た目はロッテリアのハンバーガーだが、材料が良くて手作り(決して高級料理ではないがとても美味しい)、と言う感じか。分かりづらいけど。

ドッキドキラブコメディだが、果林の家族は吸血鬼で、しかも果林は吸血鬼の中でも異端とみなされる特殊体質(血吸わなくても平気、日光平気、血を求めるのではなく血が増えて鼻血出す)である。果林はそのことに悩む。果林の体質についての秘密や、大昔に西洋から日本に渡ってきた吸血鬼の一族の話など、壮大な物語に展開しうる伏線が設定されている。

このような荒唐無稽になりがちなファンタジー要素があるのだが、この漫画はたとえこの設定抜きでも、面白く楽しめる気がする。登場人物が活き活きしている、つまり実際にいるかもしれないと思わせるからである。

たとえば果林が気になっている学校の同級生である、雨水君は家が母一人子一人の二人家族で貧乏であるため、バイトをして家計の足しにしている。昼食は抜いたりしている。勉強は果林よりできるため、弁当を差し入れてくれるお礼に果林に勉強を教えたりしている。

雨水君の家の貧乏の理由、父親が不在の理由についての物語が展開するが、絵柄が可愛らしくてぼやけがちだが、広兼憲史の「人間交差点」や「黄昏流星群」に匹敵するぐらいの重厚さで、人と人が出会い、別れるという人生の一場面が展開される。果林は雨水君と家族の人生の一場面を垣間見ることになる。吸血鬼としてではなく、普通の高校生として。

多分、わざとぼかしているのだろうが、人間ドラマも描けるのだと思う。コミケ前のりんかい線国際展示場駅に沢山、かりんのポスターが貼ってあり、いわゆる萌え萌えな絵柄の漫画に見えるが、それだけではないのである。

最近、本屋の漫画コーナーに行くと、平積みされているのはドラマ化した講談社や小学館の漫画や、萌え萌えな感じの絵柄のスクウェア・エニックスか角川の漫画ばかりで、大友克洋が藤子・F・不二夫と対談した際に言っていた「漫画そろそろやばい」という状況に近づいているように思われる。メディア展開や萌えで売れるのではなく、「かりん」が売れるような、「面白いから売れる」のが良いなあ。CDやテレビや最近のゲーム(任天堂を除く)みたいな売り方はまいっちんぐなのである。

*1:たとえば「文化祭でお化け屋敷」とか「購買が人だかりでヤキソバパンを買う」とか「無口できれいな少女が実はツンデレ」とか。あなたが良くみるシチュエーションなら何でもよろしい