げんしけん(木尾士目、講談社)
- 作者: 木尾士目
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/12/18
- メディア: コミック
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というわけで「げんしけん」である。木尾士目である。木尾士目といったら「五年生」だったのだが、いまや「げんしけん」の木尾士目だと思う。
「五年生」は、文系の大学サークルにありがちな、理詰めで口喧嘩とか、水面下でドロドロ人間関係とか、セックスしまくりとか、そんな感じの大学生の堕落っぷりが身につまされていまだ読めない。お勧めです。
で、「げんしけん」である。大学入学を機に、漫画研究会かアニメ研究会といった「それ系」のサークルに入ろうと決意した大学一年生男であるところの笹原完二が主人公で、「げんしけん」というサークルに入り、癖のある先輩や同級生と一緒にゲームしたり漫画読んだり熱く語ったりする様が描かれる漫画である。これまた身につまされた。
例えばげんしけんに入ろうかどうか迷っている笹原が、大学構内でげんしけんの先輩と会った時に、お互い見ない振りをしてやり過ごすシーンや、秋葉原に出かける途中、アニソンとか口ずさんで元気が良かったのが、金髪、ピアスの悪目の集団(高校生でいったらモテ系、目立つタイプ、いじめをする側)と通りかかると急に無口になるところなどは、大変身につまされてしまった。こういう類の矮小さこそ、オタクの素養といえる気がする。無いほうが良いけど。
上記のような、オタクの描き方の程よいリアルさが、掲載誌の月刊アフタヌーン読者の間で話題になったが、げんしけんのブームが来たのは、帰国子女の巨乳コスプレイヤーという、オタク的ツボ直撃のキャラである大野さん(口癖が「えーとえーと」なのも非常にすばらしい)や、非オタクの姉御肌である春日部さん(彼氏の高坂くんは超オタクで美形)、オタクである事にトラウマを持っているがオタクを止められない荻上さん、といった、造形的にすばらしい女性キャラが連続して登場したことによって、さらに話題に上るようになり、アフタヌーンで一時期看板となる漫画となった。アニメ化、キャラのフィギュア化などを経て、折りしも萌えの経済効果といった話題がワールドビジネスサテライトで語られるような時期も重なり、いわゆる萌えブームの旗印の一つとなっていった。
2006年1月現在、主人公と荻上さんが急接近で、ラブコメ状態になっている。これはこれで大興奮だし行く末が気になる。だが、この作品の真骨頂は、オタクの生態、非オタクとの関わり方、断絶を冷静、的確に、やんわりと、自虐的にならずに描いている事である。げんしけんの嫌われ者のクッチーが、大野さんのコスプレ衣装を盗難しようとした非オタクの男を咎めて口論し、見事衣装を取り戻すもののげんしけん女性部員に犯人扱いされるエピソードなどは特にすばらしい。理解されなくても困難に立ち向かっているクッチーは、実は大した男なのである。変態だけど。
今のラブコメ状態が終わったら、なんだか終わってしまいそうな気がするが、終わってもかまわない気がする。引き伸ばしはアフタヌーンには似合わないので*1。そう、私はアフタヌーンが好きなのです。
*1:あと「五年生」のようなドロドロ人間関係を冷静に的確に描かれ出すのを恐れているので