部屋を掃除したら漫画が沢山出てきたので書く日記

漫画とか合唱とかUNIXとかLinuxとかについて書く日記です。

米澤穂信について さよなら妖精(東京創元社)、氷菓(角川書店)、愚者のエンドロール(角川書店)

「春期限定いちごタルト事件」と「夏期限定トロピカルパフェ事件」を読み、「秋期限定栗きんとん事件」も読んで、すっかり米澤穂信が気になってしまったので、他の本も買ってみました。大変面白かったです。

色々読んで、この人の作品は基本的にミステリーなんだという事を再確認しました。なのでネタバレは厳に慎みたいと思います。

さよなら妖精は、とある地方都市に住む高校生達がひょんな事で白人の少女と出会って友人となり、出身地を告げずに帰国した後音信不通となった彼女の出身国を探すために推理をする、というお話です。簡単に表現してみると「ミステリー要素のある、ほろ苦い青春ストーリー」なんですが、読後に余韻を残す作品でした。

高校時代に楽しく過ごした秘密のある友人の事を、学校を卒業した後に集まったかつての仲間達が思い出を辿りながら調べていく、という物語が捻りがあって良いと思いました。そして分かった彼女の出身と物語の結末は、絶対に自分で読んで確かめるべきです。

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

氷菓愚者のエンドロールは、これまたとある地方都市の高校「神山高校」の「古典部」という部活に所属している高校生が主人公のお話で、作者によると〈古典部〉シリーズとして分類しているそうです。

主人公の「折木奉太郎」が、面倒臭がりですがここぞというところで閃き、推理を展開し、問題を解決していくのが毎回のパターンです。

扱う問題は「図書室の同じ本(学校何十年史)が、毎週、それぞれ別の人が借りていく理由は?」とか「古典部の出している文集「氷菓」の名前の由来は?」というように、高校生活の中で出てくる何気ない不思議な事です。でも、読後にはほろ苦い余韻があります。

僕は砂田弘の「少年探偵事件ノート」と同じ感じがするなあと思いました。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)


愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

〈古典部〉シリーズについては現時点でクドリャフカの順番

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)


遠まわりする雛
遠まわりする雛

遠まわりする雛

という続編が出ています。これもきっと買う事でしょう。


さて、米澤穂信作品を六つ読んで、思った事は以下の点です。

  • 基本はミステリー(推理もの)
  • 登場人物の造詣が漫画みたい
  • ほろ苦い(場合によってはもっと苦い事も)

それぞれについて少し細かく述べてみます。



1.基本はミステリー(推理もの)

ミステリーといえば、シャーロック・ホームズエラリー・クイーンといった古典作品のように、殺人事件などの難しい事件を探偵が解決する、というものを思い浮かべます。米澤穂信作品も基本的には主人公が探偵となり推理を働かせて事件を解決していく形を取っています。ただし、直接人が死ぬ事件はあまり無く、身の回りの不思議な事柄について調べていく、という形です。

ちなみにネット上に公開されている作者のインタビュー記事などを読むと、かなりミステリーに詳しく(職業上当然かも知れませんが)、多分、かなり好きなんだと思われます。

あと、中学生や高校生の登場人物がやたらミステリーに詳しいのも凄いです。「ノックスの十戒」とか「ヴァン・ダインの二十則」とか、普通の中高生の会話の中では出て来ないですよ!




2.登場人物の造詣が漫画みたい
ここまで読んだ時点での感想ですが、同じような特徴を持つ登場人物が登場するなあ、と思いました。勝手に分類してみると、

  • 楽天的な雰囲気を持ち、ニコニコしている男の子
  • 外見上ほんわかしていて可愛い女の子
  • クールで頭脳明晰な女の子
  • 無骨な体育会系の男

という感じです。こういう造詣の登場人物に、私は漫画やライトノベル、さらにアニメなどで良く出会います。一部作品はライトノベルに分類する人もいるようです。実際、作品から受ける印象やネット上の周辺情報を当たって感じる限りでは、作者は「こっち側」の方だと見受けられます。

私は、例えば赤川次郎が描く若者描写に比べたら圧倒的にこちらの方が良いなあ、と感じますが、こういう系統の登場人物がピンと来ない人もいるのではないでしょうか。

しかし、「それだけではない」から、良いのです。




3.ほろ苦い
この表現もどうかと思いますが、「アニメ、漫画チックな登場人物が、学校の中で、現実にはそんなせりふ言わねーよと思っちゃう、ウダウダしたやりとりをしながら謎を解いていく」話ならライトノベルやそれ系の漫画雑誌(コミックアライブとかエースとか、そこら辺かしら)を読めば見つけられると思います。しかし物語の中で与えられるほろ苦い余韻は、作者はエンターテイメントを提供しながらも人間をきちんと描こうとする努力をしていると感じさせますし、ひねた読者を楽しませてくれる力量も持っていると思います。

というわけでアニメとか漫画とかゲームとか好きな僕が、「これは普通のライトノベルと何か違う」と感じて、興奮して人に勧めたくなる訳です。
新潮社の出している、「面白い小説」のオムニバス集「Story Seller」

Story Seller (新潮文庫)

Story Seller (新潮文庫)


で、伊坂幸太郎有川浩などの人気作家と肩を並べているくらいですから、作者は既にライトノベル的な領域から飛び立って評価されているように感じます。今後が楽しみな作家さんです。

ではー。