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部屋を掃除したら漫画が沢山出てきたので書く日記

漫画とか合唱とかUNIXとかLinuxとかについて書く日記です。

成程(平方イコルスン、白泉社)

成程

成程

まだ見ぬ面白い漫画を見つける一番良い方法は、漫画雑誌を購読することだと思っています。連載作品はもちろん、読み切り作品も、一番早く発表されるのは(インターネット上もあるかもしれませんがとりあえず置いておきます)雑誌だからです。漫画読みを自認する者としては、雑誌やネットで「この作品が面白い!」と話題になる前に面白い作品を見つけたいものです。

ちなみに私は大学時代は学生寮に住んでおりましたが雑誌の共同購入制度があり、一年毎に当番を決め、

を毎週購入していました。今思うとこの頃が一番漫画についての環境が充実していた時期だったかもしれません。

さて、社会人になって結婚して子供もいる現在、毎週漫画雑誌を買うお金をお小遣いから捻出する事や、大量の古雑誌が発生することを家族に納得してもらうのは大変困難ですので、妥協して以下の雑誌を購読しています。

購入の決め手はもちろん好きな漫画が掲載されているからですが、発行間隔が長い(隔月刊とか季刊とか)というのも、出費や古雑誌の発生が抑えられるという大きなポイントです。あとはそろそろジャンプの購入を再開したいところですが、それには奥様との折衝が必要ですなー。

前置きが長くなりましたが、「成程」は上記の「楽園」にて連載されている作品です。年に数回しか発行されない「楽園」に、数ページだけ掲載されているのですが、これが大変面白いのです。そして先日、ついに単行本が発売されたので購入した次第です。

どのように面白いのかをどうやって伝えれば良いのか悩ましい作品なのですが、試みに面白いと思う要素を箇条書きしてみると以下の通りとなります。

  1. いかにもありそうな女の子同士の日常生活のやりとりの中に絶妙なさじ加減で入ってくる変な要素
  2. 可愛らしいが独特でなんとなく不安な気持ちにさせる不思議な絵柄
  3. たまに描かれる怖い話が怖い

では、それぞれの要素について細かく書いてみます。
なお、作者はブログを公開していたり、pixivでイラストや漫画を公開していますのでアカウントを持っている方は閲覧してみると、どういう作風かがより判ると思います。

ブログ
http://blog.livedoor.jp/love_cry/

pixiv
http://www.pixiv.net/member_illust.php?id=70277

いかにもありそうな女の子同士の日常生活のやりとりの中に絶妙なさじ加減で入ってくる変な要素

この作品には決まった主人公は特におらず、各話毎に登場人物は異なりますがほぼすべての話で主人公は女性です(一つだけ主人公の性別がよく判らない話がある)。かつ、大体の話では女子高校生が主人公で、舞台が学校の話が多いです。
で、女の子の会話が物語の中で大半を占めるのですが、これがいかにもありそうな感じがし、かつやりとりが面白いのです。

例として、単行本に収録されている話から、

  • 間違って自宅から歯みがきをしながら登校してしまった女子高校生「楠本さん」が、いかに歯ブラシを隠して家に持って帰るか悩んで右往左往する話(『汚れるな、歯』)

を引き合いに出してみます。あらすじだけ見ると、たいしたエピソードではないように思えますが物語の初めから終わりまでの行程が面白いのです。
パンをくわえながら急いで学校に行くという、漫画で良くある表現*1と自身の歯磨きしながら学校に来てしまった状態を比較して楠本さんは

「行程に大差あり!!」

と叫びます。それを受けて友人は

「皇帝に大佐あり そーなんだ そーゆーもんなの?」

と応えます。コントみたいなやりとりです。
歯ブラシを持ってきたものの、教室で歯ブラシを手に持っている状態はなんだかおかしく、好きな男子が近づいてきた際に楠本さんは恥ずかしいのでとっさに袖に隠します。そこでまた友人とやりとりがはじまります。

友人「そこに終日隠し持ってりゃいーだろ」
楠本さん「いざというときに袖から飛び出したらどーすんの」

(刺客を倒す楠本さんを思い浮かべながら)
友人「むしろいざというときには飛び出してくれた方が意表をつけていいんじゃないの?」
楠本さん「それはあたしが剣客だったりする場合でしょ」
友人「ちがうもんな」
楠本さん「ちがうからさ」

その後、楠本さんはせっかく歯ブラシを持ってきたので、昼食後に歯みがきをしようと、なるべく目立たないよう教室から遠いトイレに行きます。しかしそこでは同級生の加茂さんがすでに歯みがきをしており、

「まあ この学校で歯ぁみがくなら」
「ここしかないだろね」

と言うのでした。そして、5年後、同窓会で「そんな加茂さんのセリフに感動してものまねする楠本さん」のものまね(ややこしい・・・)をするがあまりウケない友人と恥ずかしがる楠本さんが登場して物語は終わります。
読みながら「なぜ歯磨きしながら学校に来るのか」とか「なぜ歯磨きするならそのトイレしかないの?」という疑問が浮かび、それらを全く気にせず進むほのぼのとしたやりとりがじわじわと面白いです。この「変な感じ」が絶妙だと思います。

また、以下のような話もあります。

  • 好きな先生が大阪育ちと知り大阪弁で喋って欲しいと頼んだ女子高校生の阿部さんが先生に見返りを求められて、草鞋(わらじ)を編んでくると約束したが上手く作れず、見かねた友人が作ってあげたらそれが先生に喜ばれてしまう話(『恋の草鞋編み』)

これも細部のやりとりが面白いのですが、それよりもまず「何故そこまでして先生に大阪弁を喋ってもらいたいのか」とか「何故草鞋なのか」とか「何故草鞋もらって先生は喜ぶのか」とか「そもそも見返りを生徒に要求する先生ってひどくない?」とか、色々と「変な感じ」がします。これまた絶妙です。じわじわと、面白さが伝わってきます。

可愛らしいが独特でなんとなく不安な気持ちにさせる不思議な絵柄

上述の通り登場人物のやりとりが面白いのですが、絵柄がほのぼのとして可愛らしく、一層面白く感じます。そして独特の雰囲気があります。スクリーントーンを一切使用しておらず、黒田硫黄みたいに墨で描いているように見えます。
しかし扉や後書きのイラストに、なんだか暗い雰囲気も感じるのです。作者のブログやpixiv上の作品*2を見ていただければ、なんとなく判っていただけるのではないかと考えています。それもまた独特の雰囲気があるのですが、逆柱いみりみたいな狂気をうっすらと感じます。

たまに描かれる怖い話が怖い

大体の話はほのぼのとした変な話なのですが、少しだけ怖い話があります。これが怖いです。

  • 女の人がマンションに帰って玄関開けたら幽霊が出て腰を抜かし、通りがかった同じマンションの別の人の部屋に泊まらせてもらうことにしたがとある理由で追い出される話(『それっきり』)
  • 一人の男を巡って女同士の果たし合いに自動車で向かう途中に、武器である鎖鎌を家に忘れてきた事に気がついた女の人が友人とどうしようか悩む話(『とっておきの脇差』)

が該当するかと思います。「それっきり」は、登場する幽霊が怖いです。あんなのが家に出たら確かにいられなくなるなあと思います。
また、「とっておきの脇差」は現代が舞台ですが鎖鎌や薙刀で果たし合いが行われるという「変な感じ」がある話ですが、怖いのは主人公が果たし合いに負けて死んでしまい、果たし合いに立ち会った友人が淡々とスコップで穴を掘って死体を埋めるくだりです。せっかくの果たし合いなのに肝心の武器である鎖鎌を家に忘れてしまううっかりものの主人公があっさりと死に、地面に埋められていくくだりは非常に怖いです。そしてこの話は単行本の中でもかなり好きです。
ただ変な話だけではなく怖い話がしっかり怖いという事で、作者の力量を感じさせます。


単行本の巻末には他の漫画家達がイラストとメッセージを寄せており、その内容が「私はこの話が好き!」というものばっかりなので、同業者から評価されている事が伺えます。私はこの作者に是非ホラー長編など描いてみて欲しいなあと思ったりします。そして黒咲練導といい、「楽園」の若手作家を選ぶセンスが素晴らしいと感じるのでした。今後が非常に楽しみです。

ではー。

*1:実際にはそんなに無いと思いますがありがちな表現として有名です

*2:有名になってしまった人はpixivでの公開をやめたり更新が途絶える傾向がある気がします。この方はどうですかねー