部屋を掃除したら漫画が沢山出てきたので書く日記

漫画とか合唱とかUNIXとかLinuxとかについて書く日記です。

石の花(坂口尚、: 講談社)

石の花(5)解放編 (講談社漫画文庫)

石の花(5)解放編 (講談社漫画文庫)

というわけで石の花です。坂口尚といえばアフタヌーンで連載されていた*1「VERSION」と「あっかんべぇ一休」、そしてこの「石の花」が有名なのではないかと思います。

出会ったのは登別のブックオフでした。全5巻のうち3巻までしか売ってなくて、とりあえずジャケットと背表紙のあらすじを読んで「おおこれはナチス政権下のユーゴスラビアパルチザンとして戦う少年クリロの成長物語だな第二次世界大戦時のヨーロッパの話好きだし買いだ買い」と思い買って読みました。その際は細かいせりふが追いきれず、とりあえずスケールの大きい作品なんだろうけど良く分からない、といった感想を持っていました。

その後府中に引越してから、漫画を整理したら出てきたので(中学時代から集めた漫画を全て府中に持ってきました。納戸のある家で良かった)、改めて読んでみたら、想像を超えるスケールと哲学を持った凄い漫画だという事にやっと気づきました。読後に放心しながら「面白い、これ面白いよ」とうなされたように奥さんに語っていました。

主人公はクリロという少年です。クリロは、学校に新しく赴任してきたフンベルバルディング先生に引率されて、クラスメートと一緒にボストイナ鍾乳洞に見学に行きます。そこでこの作品の題名である「石の花」を、幼馴染の少女フィーと一緒に見ます。石の花といっても、花のように見える形の鍾乳石なのですが、フンベルバルディング先生は、「鍾乳石を花と見るまなざし」の大切さをクリロとフィーに話します。

ここまでは新任教師と子供たちとの交流、みたいな話なのですが、突然ドイツ軍の戦闘機が子供たちを襲い、機銃掃射によってクリロの同級生たちが死んでいきます。唐突に死んでいく無常さはこの後も沢山出てきます。ユーゴスラビアののどかな村だったクリロの故郷がナチス・ドイツに占領され破壊されていきます。

その後の主人公含めた登場人物の運命は壮絶です。

まず、クリロは家に帰ることができなくなった他の難民と一緒に山野をさまよいます。その後チトー率いるパルチザンに入ってナチスへの抵抗運動を行いますが、仲間がどんどん死んでいったり、独立を目指す同じ国民であるチュトニクと戦ったりする事に疑問を感じながらも前線で戦います。クリロも戦いの中で人を殺してしまいます。殺したり殺されたりを繰り返す日々の中、絶望しそうになっていきます。

フィーはナチスに捕まり、悪名高いナチスの収容所に入れられます。アウシュビッツと同様に、働けない弱者(けが人、障害者、妊婦)はガス室で殺されます。フィーは収容所で強制労働をさせられながら、生きる為に心をむき出しにしている他の人間を見て、現実に絶望しそうになります。

しかし、二人はフンベルバルディング先生の言葉を都度思い出します。そして・・・。

結末は是非読んで頂きたいです。
クリロの兄のイヴァンはユーゴスラビア独立を目指して英国と連絡をとりながら表面上はドイツのスパイとなっている二重スパイとして活動しています。クリロの目には裏切り者としか見えません。非常につらい立場です。

イヴァンの学生時代の友人でナチスの将校となっているマイスナーは、自身が信じる人類の理想とナチスの活動を重ねています。結果として収容所であったり他民族の迫害をするのは許されないとは思うのですが、
「バラの咲く丘を作る」という思想は、結構良いかもとか思ってしまいましたよ。単純にナチス=悪ではないし、パルチザン=善ではありません。パルチザンでクリロが行動を共にするユダヤ人のイサークは事あるごとに仲間にいじめれれるし、味方は決して正義とは限らないと。そういう事がわかってしまっても敵に銃を向けるしかないクリロが歴史のうねりに巻き込まれながらも生き延びていく様が描かれます。

これは本当に、凄いですよ。もう一回読まなくては。この作者の作品で一番好きだなあ。

ではー。

*1:そう、連載されていたんですよ凄かったんですよアフタヌーン