雲の上のキスケさん(鴨居まさね、集英社)
というわけで「雲の上のキスケさん」である。実家に帰った時、妹(大学生)が薦めてきたので読んだら滅茶苦茶面白かったのでご紹介する次第である。東京に戻ってきてから調べたら、BS漫画夜話で紹介されていたらしい事が判った。だから妹も買ったのかもしれぬ。「誰も寝てはならぬ」を代わりに実家に送りたくなった。
主人公は、20代後半のOL眉子と、漫画家のキスケの2人である。眉子は会社の同僚の男と付き合っていたが、別の女と結婚するため別れて欲しいと言われる。さらに男の両親から手切れ金として360万円渡されてしまい、バーでヤケ酒を飲んでいたら、キスケと知りあう。その後色々あって、2人は付き合う事になる。
この漫画の目玉は、2人の距離感の素晴らしさである。物凄く妥当で、しかもおしゃれな距離の取り方は、物凄く格好良いカップルである。こうなりたい。
以下、偏見に満ちた私見を述べるが、最近良くある、結婚しないお洒落な女性、もはや死語だが「負け犬」が、私は嫌いである。
私には無いお洒落さ、格好良さへの妬みは、もちろんある(あるのかよ)。しかし、子供を作らない*1あるいは作るための体制を取らないのは社会に参画する大人としての義務を果していないアウトローであるとさえ思っている。
もちろん居てもいいしむしろそういう大人が居て欲しいのだが、主流になってはいけないと思う。結婚して子供を作ると、親や親戚といった無理解な周囲の大人に自分達のルールを崩されてしまいがちになるし、今までどおり気楽な生活は難しくなる。結婚しない方が楽なのは間違いない。
だが、だからといって「結婚する奴はださい」とか「こんな時代に子供作る人の気が知れない」という風に、結婚するカップルを貶める権利は無いと思う*2。
本当に偉いのは、格好悪くても、お洒落じゃなくても、苦労して子育てをするカップルだと思う。そういう親がいなければ、自分はここにいなかった、という事実は変え様が無いのだから、これを否定する者は現実を直視できない弱虫だと思っている。弱い事は否定しないが、それを広く宣伝して自分と違うものを貶める行為は非難されるべきである。
以上、物凄い反感と誤解を招く文章だが、この日記は大して注目されているわけではないから大丈夫であろう。むしろこれで有名になれたらいいなあウヒヒ。
話が物凄く逸れたが、「雲の上のキスケさん」である。眉子とキスケは、おしゃれなカップルであるが、嫌いにはならなかった。それは、お互いを理解しようとする努力をし合い、だんだん分かり合っていく、頑張っているカップルだからである。
あと、私が妬ましくてならない、都会の洗練されたおしゃれさも、あまり妬ましくない。むしろ羨ましさ、格好良いなあという憧れになった。多分、「どうだこんなに私はお洒落だし格好いい仕事して良い所に住んでいるんだぜー」というのではなく「東京でまじめに、お洒落したり結婚考えたりより良い職業について考えたらこうなるよね」という語り口だからだと思う。20年以上生きてきた人間が抱える、不幸というわけではないが重くなってきた過去を背負っている事が、登場人物から見える。自分が勝組か負組か、とか考えたり、プレジデントの「親が入れたい大学」とかを真面目に読む大人になりたくない都市生活者は読むべきである。大人向け、とりわけ20〜30代向けの漫画だと思う。各巻に入っている読みきり漫画を読むと、さらに強くそう思う。この作者は都会で幸せに生きることを真面目に考えている、数少ない表現者の1人だと思った。
あと眉子の友人の、シンガポール系華僑のマニー(女性、大阪弁、豪傑)と、ゲイの岡ちゃん(男、大阪弁、世話好き)のカップルが素敵である。マニーかわいいよマニー（これが書きたかった）。砂糖菓子の匂いがする時のマニーがとても可愛い。がんばれ岡ちゃん。
あと、都市生活や恋愛の描きかたが生々しい。手切れ金の額面360万円は、貰った事ないけどリアリティーを強く感じる。これだけ貰ったら確かに諦めそうな気がする。あとセックス描写が、童貞が読むエロ漫画雑誌*3が到底及ばないリアルさで描かれている。でもエロくもないし気持ち悪くもないよ。している当人達はエロい気持ちだろうけど。
結婚はしないが、お話は、これからも2人で幸せに暮らせたら良いねー、という感じで終わる。世の結婚しないカップルも、大半はそうなのかもしれない。それなら腹は立たないなあ、こういう漫画たくさん読みたいなあと逃げたところで終わります。
